みなさんは物事を計画する時、短期計画、中期計画、長期計画を分けて考えるようにしていますか?
本日は私の実体験を例にしながら、チームマネジメントにおいて中長期計画が重要性になる理由を、一緒に学んでいきましょう。
目次
短・中・長期って具体的には何年!?
まずは短期、中期、長期という表現ですが、これらは非常に曖昧な表現であるため、それぞれが何年ぐらいの期間を指すのかが分からない人が多いと思います。
一般的には?
短期・・・1年
中期・・・2~5年
長期・・・5年以上
一般的にはだいたいこれくらいの期間を短期、中期、長期としているケースが多いようですが、これは例えば起業する時や、まだ基礎ができあがっていない企業が将来設計をする時に用いる期間として考えてください。
今回私が題材にするチームマネジメントの将来設計においては、3年先、5年先といった計画ができない訳ではありませんが現実的ではありません。事実、企業の運営の舵を握っているような一部の人以外は、こういった長期計画を練る機会は非常に少ないです。ですので私はより現実的に考えられるように、この一般的な期間よりももっともっと期間を狭めて考えるようにしています。
チームマネジメントにおいては?
短期・・・1ヵ月
中期・・・半年
長期・・・1年以上
今回はだいたいこれくらいの期間で考えていきましょう。
チームの課題を把握する
マネジメントの計画をする前にまずは、自分が担当するチームの状況をできるだけ詳細に把握することが重要です。
私は頭で全て整理する派ですが、できない人は課題を明確にするために、見える化するために箇条書きで書き出してみましょう。
参考までに私も、担当になった当初の課題を思い出しながらできるだけ書き出してみます。
担当になった当初の課題
- 安全ヘルメットが貸与されていない
- シフトバランスが悪い
- 前任Mgrがマネジメントを放置していた
- 雨の日の対策ができていない(長靴・雨具)
- Mgrへの不信感が強い
- 目標がない
- 昨年と比較して人数が多い
- 土日祝休みという条件の人がいて不満
- 数値データがない
- 自分のために働いている人が多い(目的)
- 荷物を置く場所がない
- 整理整頓ができていない
- 清掃ができていない
- 作業場が清潔に保たれていない
- リーダーが一作業員になっている
- モチベーションが低い
- チーム内でスキルにばらつきがある
- 身体の調子が悪い人がいる
- 1年間やってきてほとんど何も改善していない
思い出して書いたので実際はもっとあったかもしれませんし、もっと細かくすればまだまだ書けますがこのくらいにしておきます。
課題をグルーピングする
ここまで課題が見えてきたら、これらの1つ1つがバラバラの課題を大まかなグループに分けていきます。
信頼関係
- 前任Mgrがマネジメントを放置していた
- Mgrへの不信感が強い
環境
- 安全ヘルメットが貸与されていない
- 雨の日の対策ができていない(長靴・雨具)
- 荷物を置く場所がない
- 整理整頓ができていない
- 清掃ができていない
- 作業場が清潔に保たれていない
チーム状態
- シフトバランスが悪い
- 昨年と比較して人数が多い
- 土日祝休みという条件の人がいて不満
- リーダーが一作業員になっている
- モチベーションが低い
- チーム内でスキルにばらつきがある
- 身体の調子が悪い人がいる
目的・目標・手段・価値観
- 目標がない
- 数値データがない
- 自分のために働いている人が多い(目的)
- 1年間やってきてほとんど何も改善していない
若干のズレがあっても構いません。大切なことは大まかにで良いのでメインとなる課題をあぶり出すことです。
優先順を考える
次のステップとして、どのグループが優先度を上げて進めていく必要があるのかを考えます。中長期的な計画にダイレクトにヒットするので、しっかり考えましょう。
今回の場合は4つでした。
①信頼関係
⇒私が担当に変わるまでの1年間、前任Mgrが完全にマネジメントを放置していたことで、マネジメントチーム全員(もちろん私を含む)に対する不信感が非常に強く、チームが悪い意味で独立している。
②環境
⇒働くうえで必要になる最低限の備品が揃っていない。
③チーム状態
⇒シフトはアンバランスで、変な条件で採用された人もいる。リーダーが一作業員になってしまっていてチームとして機能していない。
④目的・目標・手段・価値観
⇒会社のミッションやカルチャーを知らない。また、数値データが一切なく、チーム全体のスキルが把握できていないため目標もない。改善のモチベーションも低い。
これらを整理して、優先順はこうなりました。

信頼関係を取り戻すことが最優先のように感じますが、このチームがマネジメントチームを信頼できなくなった理由は、センター長、前任Mgrが、現場からあがってきた環境面の『要望』を放置したことが1番の要因でした。要望を聴いてあげること。つまり環境面を整えてあげることは、チームメンバーが『望むこと』なので最優先です。その先に信頼関係の構築があり、信頼関係を築けたうえで本来の働く目的や数値目標などを伝え、理解してもらい、それに則ってチームの状態を整えるという順番になりました。
もっと分かりやすく言い換えると、『信頼関係を構築するための環境改善』であり、『目的目標などを理解してもらうための信頼関係を構築』であり、『チーム状態を整えるための目的目標などの理解』ということです。
中期・長期でチームマネジメントを計画
先ほど優先順位を決めましたが、あれはあくまでも課題の優先を決めただけです。
ここからは課題の解決方法、つまりMgrとしてどんなマネジメントをしていくかを、どんどん組み込んで計画していきます。

担当になったのは5月です。7ヵ月後の12月に『チーム状態の安定化』という1つのゴールを決めて、それまでに各月でやるべきことを当て込んでいきます。小売業では12月はクリスマスや年末需要が高まるため繁忙期にあたります。絶好の商機なのですがその反面、商品量が増加することから店舗も物流センターも忙しくなります。それまでにチームの状態が整っていないといけないのです。
基本的には毎月30分、一人ひとりと一対一での個人面談を実施し、当初課題だと認識していたことがどれだけ解決できたかや、新たな問題が生まれていないかなどを把握します。また、同時に信頼関係の構築・維持にもつながっています。自分の目に映るものはあくまで客観的に見える風景であり、部下の意見・声こそがマネジメントの判断材料です。各月で部下たちの心の状態に気を配り、次の段階に入ってよいか、それともまだか、どうすれば次のステップに移ることができるか頭を働かせます。
また、同時にチームミーティングも毎月開催します。個人面談と違いチームミーティングでは毎月議題(ねらい)が変わっていきます。5月、6月では環境面についてどんなことを望むか意見を吸い上げたり、時にはセンター長も交えながら議論をする。7月には働く目的(会社のミッション)を伝えたり、これからの数値目標を決めて共通認識にする。8月、9月は目標に近づくための改善方法を全員で考えて計画する。10月には実行に移した改善の成果を共有し、更に改善を強化する議論をしたりします。
途中、『夏を安全に越す』という期間がありますが、言ってしまえばチームの休息の期間です。私の担当する作業チームは外での作業なので、夏場は35度を超える日もあり非常に過酷です。夏だけは派遣スタッフを採用して人数を厚くし、休憩も30分に1回に増やして対応します。この2ヵ月間は一旦前進をストップします。これも計画です。
実際のマネジメント(例)
ここからは私の実際のマネジメントの例を紹介します。
5月
5月は担当になってすぐだったので、キーになったのはやはり個人面談でした。
これまでの1年間の思い、今はどんな気持ちなのか、Mgrである私に何を望むかなど、これまで完全放置されてきてMgrと個人面談をする機会もなかった部下たちはみんな本音を語ってくれて、この段階で環境面の課題の深刻さが再認識でき、さっそく行動に移すことにしました。
6月
まずは長靴。外の作業で雨にあたる機会も多いのにも関わらず、これまで会社は支給をしていませんでした。(現場は必要としていることを分かっていたのに)私はすぐにセンター長へ依頼し許可を得ました。
次に帽子と軍手。この2つはもともと貸与できる備品だったのにも関わらず、前任Mgrが貸与していませんでした。
次に安全ヘルメット。今年の2月に強風で飛んできた物が額に当たり怪我をする労災事故が発生。当時のMgrは、庫内の作業者が使用しているのと同じヘルメットを購入して全員に貸与するという対策を講じたのにも関わらず、3ヵ月間何もしていなかった。これらもすぐに発注をかけて貸与しました。
この他にも雨具の貸与、荷物置き場(プレハブ)など、検討を進めていきました。
また、現場作業にも月に1回は必ず計画して入るようにしながら、一人ひとりの動きを見て、改善機会を探し、コミュニケーションをとりました。(月に1回しか入れない理由は輸送Mgrと兼任のためです)
7月
毎月の個人面談、毎月のチームミーティング、毎月の現場作業、日々のコミュニケーション、環境面に対するスピーディーなアクションなど、こういった私の『部下のための、チームのためのマネジメント』を継続することで、『ガッキーさんは今までのMgrとは一味違う』と、チームメンバーともかなり信頼関係を構築でき始めていました。あえて極端な表現をしますが、ここまでしてようやく私にMgrとしての発言権が与えられます。
この時期にはもうすでにある程度の数値データ(作業生産性や曜日ごとの作業量)も出揃い始めていて、10月からどのような形でチーム状態を立て直していくかの詳細な計画も始めていました。
働く目的、チームの目標、目標達成の手段、チームが一致団結するための価値観を伝える段階です。普段はみんなが活発に発言し合うチームミーティングを今回のみミニ研修化して、それらを伝えました。もちろんこの1回では全員から理解は得られず、私が導こうとした道をわざと避けて通るメンバーも出てきました。もちろん想定内です。
8月
夏。暑さも本格化してきたため一旦休憩です。
しかしこの段階では何もしないわけではなく、とにかく『リーダーシップを発揮すること』と『気づきを与えること』を意識します。それも自分1人でではなく、本社員の現場リーダーを巻き込んでです。
これまでのように精力的にアクションは起こさないものの、朝礼での言葉やリーダーの行動で確実に目的地を指し示し続け、目標に近づくためにはどんな改善ができそうかなど、答えを言わずヒントだけを与えておきます。
9月
夏の暑さもようやく落ち着き始めたため、いよいよ10月の立て直しに向けての改善チャレンジです。ここからは精力的に動き始めます。
私は私で改善の案を持っていたのですが、もっと素晴らしいアイデアが一人の部下から提案されました。それは夏のうちに私がヒントを与えていた部分の改善案でした。チームミーティングも改善の議論の場に変化し、月内で日にちを決めてチャレンジ。結果的に1日あたり1時間の時間短縮効果があるくらい大きな改善となりました。
10月
これまで『6人いたら6人フルで作業』をしていた状態でしたが、10月からは数値根拠を基にして人時計画・人時コントロールをスタート。つまり、その日必要な人数だけを自チームの作業にあてて、余った分は他チームの支援に回すようにしました。現場にとっては大きすぎる変化(人数を意図的に減らされる)であったため、若干の不満は出てきましたが、これまでに整えた環境、構築した信頼関係、共通認識になった目的・目標、成功した効率改善のおかげで、不満の巨大化はしていません。
ここからは年末に向けて微調整と、さらなる改善です。
マネジメントは持久走
いかがだったでしょうか。
実際には今日書き出したことは、私は全て頭の中で整理されていて、無意識に計画を組み立てています。なので普段はこういった形で脳内イメージが外に出ることはないのですが、よくよく見直してみると、自分で言うのも恥ずかしいですが「よく計画されているな」と思います。
これが私がチームをマネジメントをする時のプロセスです。
私はマネジメントは持久走だと思っています。短距離走と勘違いしてしまったり、早く結果を出そうとして最初に書き出した課題をいきなり全て解決しようとしてしまうと、当たり前ですがマネジメントはどれも浅はかになってしまい、どれも中途半端になり、結果、また新しい問題を生んでしまいます。しかもその問題に気づいた頃には時すでに遅し。簡単に修復できないくらいにまで傷が広がっていることがほとんどです。
課題を整理して、順序立てて、計画を立てて、徐々に徐々に改善しながら組み立てていくことが重要です。
最後に裏話です。
私は5月に輸送Mgrに事業所内異動(役割変更)をして、兼任でこの作業チームを担当になりましたが、担当になった当初、センター長からは「作業チームのことは後回しでも良いからまずは輸送を完璧にしてくれ」と言われていました。しかし、現場に降りてみて自分の目で見てみると、メンバーの話を聞いてみると、チームの状態は酷い状態。私は最低限の輸送の知識を付けた後すぐセンター長に、「チームの立て直しには最低でも半年はかかる」、「輸送よりもチームマネジメントに重きを置きます」と伝えました。センター長は一応は認めてくれたものの、根本的な意見の食い違いがあったため、しばらくの間は風当たりがかなり強かったです。「いつまでもチームマネジメントに比重を置くな」という無言の圧を感じながらも、短期決戦を仕掛けず、中長期計画のマネジメントができて本当に良かった。途中で私のチームマネジメントに対する情熱を多少なり分かってくれたようですしね。
みなさんも私と同じように、様々な理由で時間がない時、急がなければいけない時があると思います。しかしそんな時だからこそ冷静になって、『マネジメントは持久走』だということを思い出し、事前に計画してスタートを切れるようになってください。不思議ですが、それが結果的に部下たちのためになり、あなた自身のためになります。
焦ってマネジメントをしてしまって負う傷は、傷口は広く、深く、その後修復するのに数年はかかる『大きな傷』になります。