『自己有用感』
普段の生活ではあまり聞かない言葉だと思いますが、リーダーシップを発揮してチームを導く際には非常に重要なキーワードになります。
本記事では『自己有用感とは何か』を解説したうえで、『より多くの人が自己有用感を感じられる環境づくりのポイント』まで解説していきたいと思います。
自己有用感とは
そもそも自己有用感とはどのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
自己有用感とは
他人に認められているということを実感すること
少し難しいかもしれないので、もう少しかみ砕いて解説します。
上司や部下、同僚、家族など、自分以外の人であれば誰でも良いのですが、「あなたがいてくれていつも助かっている。」や「いいね!」や「さすがだね。」と言われたら、相手は自分の『存在』や『考え』や『実績』を認めてくれていると感じることができると思います。これらの言葉は『承認』の言葉、つまり『私はあなたのことを認めているよ』というメッセージです。
自己有用感とはこのようなメッセージを受けて、『自分は他者に認められている』という現実を強く実感することを意味します。
自己有用感を感じる具体例
自己有用感は私が大学生時代、中学校に3週間の教育実習に行った時に知った言葉です。
その中学校の生徒指導主事の先生がある日、私にこんなことを教えてくれました。
「不登校になってしまう生徒を増やさないためには、生徒たちに少しでも自己有用感を感じてもらうことが大切なんだよ。」
これは1つの例ですが、みなさんも学生時代を思い出しながら読んでみてください。
1日の授業が終わった後は必ず下校前に、班ごとに分かれてトイレ、廊下、教室、視聴覚室など、校内を一斉に清掃した記憶があると思います。イメージできたでしょうか。そこに1人だけ、クラスメイトと上手く打ち解けられずにいつも独りぼっちの生徒がいたとしましょう。その独りぼっちの生徒は周りのクラスメイトたちとは上手くコミュニケーションは取れないけれど、毎日の清掃の時間はいつも一所懸命に黒板をキレイにしてくれています。この時に先生がその生徒に、「○○君、いつも黒板をキレイにしてくれてありがとうね。」と一声かけるだけで、生徒は自己有用感を感じることができるのです。
その生徒の気持ち
・先生が喜んでくれた
・先生はいつも僕を見てくれているんだ
・また明日もキレイにしよう
・みんなが気持ちよく授業を受けられるのは、自分が黒板をキレイにしているからだ
『自分が誰かの役に立っている』
『自分の行いで誰かが喜んでくれている』
『自分はここにいていい人なんだ』
『また明日も学校に来て黒板をキレイにしよう』
これが自己有用感がもたらす効果です。
先生たちはこういった些細なアプローチを日々積み重ねて、生徒たちの心を支えているのです。
『小さな承認』を積み重ねる
先ほど例で挙げた『中学校』を『職場』に置き換えて考えてみると、承認を与える役割のある人は『先生』ではなく『リーダー』になります。
自己有用感を感じてもらうためには『承認』が必要です。
リーダーはチームメイトや部下たちに日々、常に目を向けて、承認の種を探すことが全ての始まりになります。
「この部署で毎月利益が1,000万出ているのは、君が日々コスト管理を徹底してくれているからだ。」
こんなに難しく考える必要はありません。
小さな種
・毎日休まず出勤してきてくれる
・乱れていたトイレのスリッパを揃えてくれた
・遠慮なく意見を言ってくれる
・休憩室のポットのお湯が減っているのを毎回チェックして補充してくれている
このように本当に些細なことで良いので探してみましょう。
部下の良いところを1人100個見つけて、ノートをびっしり埋めるのもおススメですよ。
承認の仕組みづくり
チームを引っ張るリーダーが自ら率先して部下たちを承認することは基本中の基本です。リーダーの承認力が高まれば、それに引っ張られて多くのチームメイトが承認の言葉を発するようになるでしょう。
しかし、他人に良いところを見つける習慣づくりは簡単にできるものではありません。
この自己有用感をより多くの人に感じてもらうためには、更にレベルの高いコミュニティをつくるためには、『仕組み』を作って、リーダーが目や手や口を動かさなくても、チームメイト同士が自然に承認し合える環境を作り出していく必要があります。
具体例:MVP表彰
自己有用感を感じてもらうための手段として、私の事業所ではMVPを毎月1人選出して表彰しています。
MVPの表彰はその月に最も輝いた人を、従業員一人ひとりが投票で推薦をして、その中から1人を選出し、写真を撮って、詳細な選出理由を記載して、受賞者のコメントを載せて掲示板に掲示し、表彰します。
中学校の先生の例のような『一声かける』というアプローチは日常で不定期に生まれることですが、MVP表彰は毎月恒例の『仕組み』として機能します。
そして、推薦(投票)をするということはつまり、他人の良いところを見つける習慣づくりに結び付くのです。
このMVP表彰の裏側には、『受賞者に自己有用感を感じてもらう』というねらいの他に、『自己有用感を与えられる存在を増やす』というねらいも隠されています。
チーム全員が他人の良いところを見つける仕組みがあることで、お互いに承認の言葉を贈り合う習慣づくりのきっかけになり、同時に、『一声かける』ということが怖い人や、慣れていない人の手助けにもなるのです。
まとめ
承認は、最初は本当に些細なことで構いません。
むしろ大きなことを1個承認するよりも、小さなことを100個承認した方がモチベーションUPに繋がるでしょう。
みなさんも本記事で紹介したMVP投票の例を参考にしながら、様々な工夫で承認の機会を増やし、自己有用感を与えられる人を増やし、自己有用感を感じられる人を増やし、モチベーションが高く保てて働きがいのある環境をつくっていってください。